「仕掛学」を用いた「ついしたくなる」UXデザインを考える

 「UXデザイン」という言葉が巷に出てから久しいですが、この本はUXを学ぶ一歩目としておすすめです。私の周りにはUXに明るい人が多く、色々な話を聞くのですが、正直、具体的にどのようなアプローチすれば良いUXを作れるのかが全く分かっていませんでした。しかし、この本を読みUXデザインの本質が少し見え、専門家の話も腹落ちできるようになりました。

仕掛学―人を動かすアイデアのつくり方

仕掛学―人を動かすアイデアのつくり方

 Webサイトやアプリデザインをしている友人から、UX関連の相談を受けることがあるのですが、まずはこの本を紹介しています。ただ、紹介するときに「学びは何なの?」に上手く説明することができなかったため、今回、改めてこの本からの学びを整理することにしました。

仕掛学とは

 解決したい課題があったときに、その解決策は無限にあります。無限にあるのですが、その中で「刺さる」解決策はごく一部で、我々は「刺さる」解決方法をデザインしないといけません。仕掛学では、下記のような解決策を狙います。

 本の中で紹介されていたわかりやすい例として、漫画ドラゴンボール単行本の背表紙の絵によって整理整頓を実現する話がありました。

 漫画本を集めていくと、本棚から一部がなくなってしまったり(違う場所にある)、巻の前後関係が変わってしまうことがあります。「整理整頓しよう」と言ったり、意識したりするものの、どうしても放置されがちです。

 ドラゴンボールは全42巻なのですが、1巻から順番に並べると一つの絵になります。筆者がそれを意図していたかはわかりませんが、 「整理整頓してほしい」 「順番に並べてほしい」 という想い(課題)を、 「絵を揃えたくて順番通り並び替えたい」 という「ついしたくなる」デザインによって実現しています。

 もしかしたら、途中で単行本を買うのをやめた読者に対して、「背表紙を全て揃えたい」という想いを持ってもらい、最後まで買い揃えてもらう意図もあるかもしれません。「漫画を読みたい」という元々の想いだけでは、週刊誌を買えば解決してしまうので、それにプラスした価値を提供していると言えると思います。

いい仕掛けとは?

「いい仕掛け」の大前提として、後味がいいことが挙げられます。

「騙す」ことで一時的に収益を上げたりしても意味がなく、利用者にとって真に価値のある「体験」をデザインしてあげることが大切です。

定義的な話でいうと下記が「いい仕掛け」が満たすべき条件です。

どれもここまで説明してきたもので、「騙すわけではなく」「ついつい行動してしまい」「実は行動者とデザイナーの目的が異なる(絵を揃えたい/整理整頓してほしい)こと」が必要条件になります。「直接的ではなく結果的に課題を解決すること」を狙い、行動を制限せず、行動を誘発することを狙います。

仕掛けの具体例

この本の中では、30以上の面白い仕掛けが紹介されてます。その中で、面白いと感じたものを3つ紹介します。

 綺麗に撮るのが難しいトリックアート型の広告を用意することで、インスタで「上手く撮れた」とアピール(行動者の目的)してもらいそれを販促(デザイナーの目的)に繋げています。誰も不幸にならないWin-Winなデザインと言えると思います。

 駅構内にいくつかポスターが貼ってあり、1つだけいい匂いがするという例です。新しい体験やゲーミフィケーション的な要素を加えることで、販促に繋げる例です。

 この例は特殊で、「食べちゃダメ」と直接言うのではなく、「食べてもメリットがない」という体験によって「誤飲防止」という目的を達成しています。

いい仕掛けをつくるには

 本の中で、仕掛けを16のパターンにカテゴライズしています。このパターンを参考に、仕掛けのアイディエーションをすることで、新しいアイデアが出てくると感じました。

 また、筆者は「子どもを観察することで、巷の仕掛けに気が付きやすい」と書いています。子どもの方が反応が素直(オーバー)なので、デザインによる反応が分かりやすいからです。

エンジニアとして「仕掛学」をどう活かしていくか

 大抵のものは揃っている近年ですが、まだまだ世の中には不がたくさんあると感じています。これらの不の多くは「誰も対応してこなかった」ものではなく、「対応しようとしたが上手く定着しなかった」ものではないかと考えています。

 そのような課題に対して、直接的にアプローチするのではなく、

  • 不をブレイクダウンさせ、不の根底を洗い出す
  • その根底に対し、間接的に解決を促すようなソリューションを考える

ことにより、日常に根付く真の解決策を提案・実現できないかと考えています。私はUXの専門家ではありませんが、まずは新しい価値創出の初手としてこの考え方の型を使っていこうと思います。

もしよければ読んでみてください。

仕掛学―人を動かすアイデアのつくり方

仕掛学―人を動かすアイデアのつくり方